落合陽一×中谷一郎「人間の手を離れたロボットは、ホロコーストを再現するかもしれない」
本当のロボット社会 第2回 メディアアーティスト・落合陽一×JAXA名誉教授・中谷一郎
ロボットがもたらす「ベーシックインカム」
中谷:ええ。ただ、一方でバラ色の未来もあり得ます。知的活動も芸術活動も、政治家・軍のトップのような高度な戦略判断も、ロボットが人間より優れた形で行うようになる。そうなると、人間はもうやることがないですよ。朝から温泉にでも入って、お酒飲んで遊んでいるしかない。
今はまだそんなことをしていたらお金に困ってしまうんですけど、これからはロボットがどんどん新しい富を生み出してくれるようになりますね。当面もベーシックインカムという考え方がありますけど、ロボットがみんなにお金を配るので人間は遊んで楽しくやってください、という社会をロボットが推進していくかもしれない。それをバラ色の未来というか、腐りきった未来と呼ぶのかはわかりませんけどね。
落合:バラ色というか、普通だと思います。ただ、文化によってかなりの差が出るんじゃないでしょうか。北欧系は税金が高いのをよしとする文化ですけど、日本はベーシックインカムに納得できないタイプだと思うんですよね。だから、日本では平均賃金を上げることで対処する、という感じかな。もしくは子育て支援金がものすごい金額もらえるとか、きっと労働と悪平等をうまく社会システムに組み込んでいくと思います。
中谷:確かに日本人のメンタリティにどこまで馴染んでいくか、というのは難しい問題だと思います。ただ、あらゆる仕事をロボットが人間より高いレベルでやるようになったら、人間のやることはなくなりますよね。人間の生きがいだの倫理だのといった、贅沢なことは言っていられなくなると思いますよ。
落合:たぶん、みんなポケモンGOやっている感じだと思います(笑)。たとえば「Uber」の運転手の仕事ってすごくポケモンGOっぽいんですよ。アプリを起動して、ある地点でお客さんを乗せて、お客さんを降ろすというのはきわめて位置情報ゲームなんです。ポケモンGOの場合は経験値とかゲーム内でしか使えないパラメータをもらうんですけど、Uberの運転手はそれでお金をもらっている。この二つって、実は何も違わないんですよ。
中谷:なるほどね。
落合:きっとコンピューター制御の働き方になっていくと、働いているのか遊んでいるのかよくわからないと思うんですよね。そうやって局所最適に人間がシステムに組み込まれると思います。現状、リスク管理はロボットの方が得意なんですけど、デンジャーに対応するのは人間の方が得意です。リスクは想定しえるんですけど、デンジャーは想定しえない。
たとえば、運転している車に隕石が落ちてきて車が大破するというのは、リスクじゃなくてデンジャーですよね。だからロボットの腕がなぜか野良猫に引きちぎられてしまって、この腕をどうすればいいかという対処フローはまだ人間の方が得意なんです。やがてはロボットの方が得意になると思いますけど、コストの観点から人間を入れておけばいいっていう発想にはなりえると思う。
あとよく思うのは、人間ってけっこう便利なんですよね、壊れても直るから(笑)。ロボットは結構直すの大変なんですよ。パーツを付け替えればいいんですけど、パーツの製造工場がそこら中にあるわけじゃないし。でも人間は体内に製造工場を持っているから、表面が壊れても直るんですよ。
中谷:宇宙でもそうですね。モノが壊れる予想をしておけばスペアパーツを持って行けるけど、まったく予想してないところが壊れたらどうしようもない。だからまさに宇宙ではそういうことが先端的に現れる研究対象なのですね。
落合:人間をコールドスリープして積んで置いて、10年くらいかけて教育して出力すればロボットよりも壊れにくいロボットとして働く、というのはあり得ると思います。結構極論に聞こえますけど、本当に宇宙に人を送ることになったらそういう考え方しますからね。もちろん乗務員が死亡したらオペレーションは変わりますけど。
中谷:NASAではよくexpect the unexpected、つまり予想しなかったことを予想する、という議論をしますね。スペアパーツは何と何をどのくらい持っていけばいいのか。ロボットは自分で臨機応変に何をしてくれるのか。人とロボットどっちを送るのかというのは大議論ですね。
編集部注
*ラグランジュポイント……一般に質量がきわめて小さい物体が、質量の大きい2天体と同じ周期で周期運動できる位置。多くの場合は不安定な軌道をとって天体とぶつかるが、その位置関係がほとんど変わらないまま周期運動できる点が合計5つ存在する。
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1987年生まれ。筑波大助教。メディアアーティスト。東京大学大学院学際情報学府博士課程修了。IPA(独立行政法人情報処理推進機構)認定スーパークリエータ。超音波を使って物体を宙に浮かせ、三次元的に自由自在に動かすことができる「三次元音響浮揚(ピクシーダスト)」で、経済産業省「Innovative Technologies賞」を受賞。2015年には、米the WTNが世界最先端の研究者を選ぶ「ワールド・テクノロジー・アワード」(ITハードウェア部門)において、日本からただひとり、最も優秀な研究者として選ばれた。
1944年生まれ。JAXA名誉教授、愛知工科大学名誉教授。1972年、東京大学大学院工学系研究科博士課程修了。工学博士。電電公社電気通信研究所に勤務し、通信衛星の制御の研究に従事。1981年より宇宙科学研究所(現JAXA)に勤務し、助教授・教授を務める。科学衛星およびロケットの制御、宇宙ロボットの研究・開発に従事。東京大学大学院工学系研究科助教授・教授、愛知工科大学教授、東京大学宇宙線研究所客員教授・重力波検出プロジェクトマネージャーを歴任した。